注目の新サービス「介護予防」とは?

■介護予防の始まり
そんな現状を目の当たりにした政府は模索を始めます。そして、「生活を快適にする道具を与える制度」から、「心身共に健康な生活を手に入れる制度」への転換を決めたのでした。それが、2006年4月から開始される「介護保険改正」なのです。介護保険改正に伴い「予防給付」という位置付けで、下記の内容が盛り込まれることになりました。

・対象者
⇒要介護認定で「要支援」又は「要介護1」と認定された人

・サービス内容
1、 運動機能の向上サービス
2、 栄養改善サービス
3、 口腔ケアサービス

それぞれのサービスは誰にどのようなサービスを行うものなのでしょうか?簡単にまとめてみると次のようになります

・対象者 サービス内容
生活機能が低下した高齢者 筋力向上トレーニングによる生活行動体力の回復・維持
転倒危険のある高齢者 転倒予防教室
軽度の痴呆 痴呆予防教室
尿失禁の経験者 尿失禁予防教室
栄養状態のよくない高齢者 低栄養予防教室
足のトラブルによる歩行難 適切な履物(靴など)と中敷の調整補助
口腔ケア 歯磨き教室と義歯の調整

このようなサービスをきめ細かく行うことで、日常生活動作レベルを回復・維持させ「健康な高齢者作り」と「介護保険・医療費削減」を実現させようとしたのが『介護予防事業』なのであります。それでは、主なサービスについてもう少し詳細をみていきましょう。

■運動機能向上サービス
現在運動機能向上サービスで最も注目を集めているのは、「高齢者筋力向上プログラム」などの筋力トレーニングマシンを使ったプログラムです。どんなプログラムかというと、みなさんフィットネスクラブに行ったことはありますか?

フィットネスクラブの経験がある方なら使ったことがあると思いますが、筋トレマシンっていう大きなトレーニング機器がありますよね。あの大きな筋トレマシンを使って身体機能を維持・回復させるプログラムなのです。えっ・・・!あんなのマッチョマンがやるトレーニングじゃないの?って、思ってしまいますが、ウェイトの重さを軽くしたり、補助員が運動のサポートをしてあげたりしながら運動していくので、高齢者の方でも、ほとんど問題なく取り組むことができるのです(ただし、高齢者の場合、身体作業能力の差が激しい為事前にメディカルチェックが必要です)。

それに、約2年前から各自治体が大学・医学関係者と共同でモデルケース作りに取り組んでおり、そのトレーニングをすることで高齢者の方にどういう効果が出るのかをデータ取りをして研究していたので、学術・医療的なバックボーンもあり、信頼性があると言えるのです。つまり、無用な体力増強ということではなく、日常生活に必要な生活行動体力を維持又は回復させる為にする運動サービスということです。

では実際に現在「運動サービスメニュー」に取り組んでいる施設がどういうことをしているのかを書いてみましょう。

★この項目を読むことのポイント
この項目を読むことで、実際の施設がどういう取り組みで『介護予防』に取り組んでいるのかを少しでも理解して頂きたいと思います。

ご自身が資格を取ってからの就業イメージをここから掴んで頂ければよいのではないでしょうか。ここでは、ある施設の開設準備段階から現在の運営に至るまでを実際にあった例について順を追って書いていきます。介護予防に携わる仕事がどういうものかを是非参考にして下さい。

■デイケアサービスでの「高齢者筋力向上トレーニング」への取り組み
ここで説明するデイケアサービスは関東に実存する施設です。この施設は「介護予防」の全容が明らかになっていない2006年2月1日から既に来るべき「介護予防事業」の開始に向けて準備を進めていました。先ずは、高齢者の方が「運動サービス」を受けるために必要なものは何なのかから始まったのです。

◎必要なもの
 (ハード面)
・ 資金
・ 建物
・ 備品
・ 機械
・ 送迎車
・ その他関連品

(ソフト面)
・ 人材
・ 運営ノウハウ
・ 介護予防プログラム

簡単に数えただけでもこれ位ありました。
資金については当該施設の機密に拘わるので置いておくとして、まずは『スペース』『ノウハウ』『人材』が大きな懸案事項となりました。介護予防の運動プログラムである「高齢者向け筋力向上トレーニング」を行うには大型の機器を数台置くスペースが必要なのでした。フィットネスジムにある「筋力トレーニングマシン」を5〜6台設置するスペースが必要になります。また、その他の有酸素系マシンと呼ばれる「ランニングマシン」や「自転車型トレーニングマシン」も置かないといけませんし、ストレッチをするスペースも必要です。

トレーニングだけのスペースではありません。他にもこれだけの目的でスペースを確保しなければならないのです。
・団欒の場を楽しむ『コミュニケーション』スペース
・食事や休憩をする為の『飲食』スペース
・運動後の汗を流す『入浴』スペース
などなど・・・。

そしてそのスペースを有効活用する為の『ノウハウ』と『人材』が重要になってくるのでした。
以前からデイサービスを運営していたこの施設では、機能回復を目的とした「理学療法士」が在籍していていました。新しくスタートする『介護予防事業』については、この「理学療法士」を中心に当時在籍していた「介護福祉士」と「ヘルパー」を含めて準備をすすめることとなったのです。なるべく現状の『ノウハウ』と『人材』を活用しながら、足りないところを外部から取り込むことによって進めていこうという方針でした。

そして外部から登用した人材も後々の準備段階で活躍することとなります。それは、『トレーニング機器の選定』と『人材募集』においてでした。トレーニング機器については、国内・海外含めて数社が『介護予防』向けの機器と運営システム(運動プログラム)を販売していたので、その中から選ぶこととしました。その選定の際に活躍したのが、『人材募集』で採用した「元フィットネスクラブ」のインストラクターでした。

彼は数箇所のフィットネスクラブでの指導経験があったので、たくさんの機器を使用した経験があり、複数ある機器メーカーの特色を理解していたのでした。その彼も加わり「機器及び運動プログラム」の選定に取り掛かったのです。機器の使い勝手やメーカーの特色などは、「知識と経験」がないとなかなか分かりづらいものです。そんな時にインストラクターの経験が活かされました。そして『人材募集』においても、彼の知り合いであったインスタトラクターの女性を2名採用することができました。人材採用においてもインストラクター時代の経験から「採用基準」が明確に決定することができ、また過去の実績を知っている知り合いなら「即戦力」かどうかも判断できる訳です。しかも、インストラクター同士のコミュニケーションも出来上がっているので、早い段階からマンパワーが存分に発揮できることとなったのでした。

以上が「施設運営」が開始されるまでの実際のケーススタディでした。

ここまででも、施設開始にあたって必要となった人材として、
・理学療法士
・フィットネスクラブのインストラクター
・介護福祉士
・ヘルパー
が活躍しました。つまり、これらの資格を持って経験を積んでいくと新規施設の立ち上げなどから業務に携わることのできるチャンスに巡り合える可能性があるということです。

施設運営を開始する際に『必要な人材』として登用されるケースもあり、今後も有望な資格であります。
また、その他の資格でも取得して実務経験を積んでいけば、このような業務立ち上げという普通では滅多に拘わることのできない業務に出会うチャンスがある訳です。

では、実際に業務運営を開始してからどんなことが起こったのかも少し書いてみたいと思います。

★ここでのポイント
これから資格取得・就職を目指すあなたが、実際に対面する仕事がどんなものなのか少しでもお伝えできればと思います。

■施設での仕事で感じること
施設での仕事は、それぞれが役割分担されていています。
それぞれの業務について書いていますと、それこそページが足りないので介護予防の「運動サービス」に取り組む仕事について紹介していきたいと思います。

 「運動サービス」に携わる数多くの人が感じることがあります。それは、「高齢者の方が元気になっていく様子が手に取るように分かる」ということです。そしてこの事を話される時、職員のみなさんがある共通点をお持ちです。それは『笑顔』で話してくれることです。つまり、それだけ「やりがい」のある素晴らしい職業であることと感じているからこそ、『笑顔』で話してもらえるのだと思います。

例えばこんな事例がありました。

(事例1)
歩行が困難であった高齢者の女性が、3ヶ月間の「高齢者向け筋力向上トレーニング」を受けました。当初は歩けなくなったことからか、精神的にも落ち込んでおられ、会話もあまりなさらない程でした。3ヶ月間の間少しずつコミュニケーションを深めながら、心身共に健康になるように『プログラム』を進めていきます。
するとどうでしょう。今まで困難であった歩行力が、少しずつ歩ける距離が伸びていったのです。始めは3M先まで歩くのも困難であったのが、最終的には階段を登ることもできるようになったのでした(手すりを持ってですが)。しかも、体力的な改善が進んでいくうちに、精神的な改善も見受けられるようになってきました。
それはどのようなことかと言いますと、日を重ねるごとに体調が良くなってきたこともあり、当初は元気がなかった高齢者の女性が、職員との会話を楽しむようになってきたのでした。日々の対応でコミュニケーションが深まってきたのですね。そして何より驚いたことは、2ヶ月を過ぎた頃からその高齢者の女性が施設に来る時には『お化粧』をしてくるようになったことでした。

高齢者と言えでも『女性』です。体力的に改善の兆しが見えたことで自信がつき、そのことで精神的にも前向きになることができ、『女性としても輝いてみたい』という忘れかけていた感情が、その2ヶ月の間に再び芽生えてきたのでした。心身共に健康になるとはこういうことを言うのでしょう。そして、そのことを話す時の職員(インストラクター)さんの顔は、それはそれは嬉しそうな『笑顔』で私に話してくれました。仕事を通じてこういう【感動】に出会えることって少ないです。

人との触れ合いによる【感動】。
まさに仕事を続けていくうえで大事な「やりがい」に直結することであるのは言うまでもありません。

もちろん、このようなケースばかりではありません。高齢者の方特有の辛い事柄もあります。「生活機能の低下」「痴呆」「失禁」「無気力」などなど思ったように自分の気持ちが伝わらないこともあります。そして何より『人間の生命』の終焉も目の当たりにすることもあるのです。喜び・悲しみ・感動など、人間の感情に直接触れることができる仕事であることだけは間違いありません。そしてそれは、仕事という「概念」を超えて人間としての「感情」に訴えることもしばしばあるということです。

『高齢者向け筋力向上トレーニング』について、実際の施設の立ち上げからそこで働く人のお話までを簡単ですが書いてきました。

たくさんある仕事の中のほんの一つの事例ではありますが、少しでも実際の職場がイメージして頂けたなら幸いです。

■その他運動機能の向上サービス
筋力向上トレーニング以外にも様々なトレーニング方法が現在も検討されて実施されています。大掛かりなマシンを使うのではなく、チューブやフィットネスボール・ステップ台といった小型で簡便で低価格の機器を使った運動メニューも採用されています。例えば、昔からあった踏み台昇降運動をするだけという簡単なプログラムも積極的に取り入れられています。しかし、その成果は驚くほどの結果を生み出しているのです。簡単に紹介していきましょう。

某大学教授が検証も重ねた「高齢者向け運動プログラム」を踏み台昇降で実施した際の測定データの結果を見ても、
1、 持久力40%向上()
2、 脚伸展パワー20%UP
3、 体重 1.6kg減
(12週間の踏み台昇降運動の結果)
*持久力とは=長時間に渡って運動する時に必要となる能力脚伸展パワーとは=地面から足を蹴りだす力(ジャンプ力)という結果が出てきているのです。

そして、そのプログラムを体験した高齢者の方のお声は、
◎80歳 男性 今まで階段を1段ずつ両足を揃えて昇り降りしていたのが片足で1段ずつ昇り降りすることができるようになった。

◎82歳女性 3年程、腰痛でコルセットが外せなかったのが、ステップ運動をしたおかげでコルセットが必要なくなった。手すりを使わなくても階段を昇り降りできるようになった。

◎73歳 男性 人工骨を使用している方ステップ運動実施後、杖が要らなくなった。

という声が集まってのでした。

もちろん、途中で体調を崩し危険した高齢者の方もいましたが、約9割近くの方が最後までプログラムを続けられ、そして続けられたほとんどの高齢者の方は生活行動体力の改善の傾向が見受けられたのでした。  また、これらの大学教授らのデータ取りもどんどん進んでおり、その成果は学会等で発表されているほどです。今後益々の運動バリエーション増加が期待できますので、新しいサービスプログラムの情報はいち早く掴んでいる方がいいかと思います。

『NIKKEI NET いきいき健康』http://health.nikkei.co.jp/の情報が参考になるかと思いますので、一度覗いてみて下さい。

最新の運動機器の開発力向上は目を見張るものがあり、中には高価ですが機械に座るだけで機械が自動的に身体を動かしてストレッチ運動と同様の効果が得られるような「電動式」の機器も発売されています。自動的に機械が動いたら運動の意味がないのでは?と、思われるかもしれませんが、これは大きな意味を持つことになるのです。実際の高齢者の症状は十人十色です。症状の重い方は、自分の意志では手足を動かすことが困難な方も大勢いらっしゃいます。そんな方には「電動式」の機器を使うことにより運動サービスを受けてもらう訳です。

このことには施設を運営する側に取っては大きな意味が二つあります。
1、 機械による対応人数の増加
⇒今まではそのような症状の重い方には、理学療法士や作業療法士がマンツーマンで対応していました。個別対応でいいのですが、その分時間内に対応できる人数に制限ができてしまいサービスを受けるのに長時間待たされたり、ことによってはサービスを受けることができないという事態が発生していたのです。機械の導入により、コミュニケーションを取りながらという前提は必要ですが、決まった時間内での対応人数を増やすことができました。

2、サービスの公平化
高齢者筋力向上トレーニングでは筋力トレーニングマシンを使用することが多いのですが、ご自身の意志で手足を動かせない高齢者の方はそのプログラムを受けることができませんでした。そこには他の高齢者と同じく介護保険料を税金として納めているのにサービスを受けられないという『サービスの不公正』が発生してしまうのでした。それを改善するのが、このような機器を使ったサービスとなるのです。

このように最新の「機器」や「運動プログラム」は、これまでの課題を改善することができる可能性を秘めたものも多く、それらの情報を正確に認識しておくことも、介護予防事業に関わるには大切なこととなってくるのです。

運動機能の向上サービスについては、
・「健康維持・増進」という明るい介護保険のイメージ定着
・介護保険、医療費の削減
・新しい雇用創出
という大事な役割を担う新しい制度であり、多くの期待が寄せられています。

この章を多くのスペースを割いて様々なケースを説明した理由もそこにある訳です。

■栄養改善サービス
運動だけでなく、健康な身体と精神に大きく拘わってくる「食」について専門家が栄養バランスの取れた「食生活」を営めるようにアドバイスします。「食」は栄養バランスだけでなく、心身共に健全な人間を作り上げていくのに非常に重要な役割を持っています。美味しいものを食べると幸せな気分になるでしょ!?そして、美味しいものばかり食べていても、栄養過多になったりしますよね!そんな大事な食生活での栄養面において専門家が、個人に適切なアドバイスが実施できるようにメニューを組むサービスなのです。

ここで重要なのは、先程の運動機能向上サービスでも同じなのですが、「個人に適した」サービスの提供ということであります。高齢者の症状や嗜好は「十人十色」「千差万別」であります。それぞれの症状に合わせたプログラムでないと、かえって悪循環を起こしてしまう可能性もあります。ただし、現状の介護施設等では急激な人数増加の為、個人に適したメニュー作りは非常に困難な状況であります。大勢の方の食事を作るには「同じメニュー」でないと効率が悪いし、費用も高くつくからです。新事業として掲げた「理念」と現実の「施設運営」を如何にバランスを取って切り盛りしていくかが課題と言えるのです。

心身共に健康な身体作りにとって、運動だけでは決して充分であるとは言えません。食事のコントロールができないと、いくらを運動をして生活行動レベルを上げても、大病の発症につながることもあります。運動メニュー同様に個々に合わせた「栄養改善サービス」の提供が大きな命題となっています。

■ 口腔ケアサービス
せっかくのバランスの取れた栄養メニューがあっても、自分の歯で噛むことできずに食べられなければ、絵に描いた餅です。口腔清掃,歯石の除去,義歯の調整・修理・手入れ,簡単な治療など口腔の疾病予防・機能回復,健康の保持増進,さらにQOLの向上を目指したサービスでとなります。
*QOLとは・・・Quality of life(クオリティ・オブ・ライフ)の略「人が人としての尊厳を保ち、よりよく生きること」を意味します。

『口腔ケア』は介護に関わる人々にとって、関心が低いことが現状の問題として挙げられるのです。
それは、取りあえず今すぐ大きな問題にならない口腔ケアよりも、「目の前のおむつ交換」などの目先の緊急性の高いことを優先事項においてしまう傾向にある為なのです。そして、食べ物が咀嚼(そしゃく=噛むこと)できなくなってから慌てて、口腔ケアに取り組むという悪循環に陥っている事例も多いのです。

だからこそ、介護予防改正において「口腔ケア」にも重点を置くような施策を制定し、口腔ケアについて「関心」や「注意」を持って、必要な知識を有していこうとすることを奨めているのです。

■新しい介護保険のサービスの行方
これら3項目を重点的に注力し、「心身共に健康な高齢者」を目指し、新たな制度として取り組んでいこうというのが、今回の介護保険改訂における介護予防の位置付けであります。今までの一方的な「押し付けサービス」から「個を尊重したサービス」への質の変換ができるかどうかが、成功への重要な要因の一つと言えます。そして、そこにはそれを成しえる「人材」と「ノウハウ」が必要となる訳です。特に「人材」については、すぐに育つものでもありませんので、様々な事業者が少しでも早く「活躍できる人材」を育成・確保していこうという状況になっています。

だからこそ今が『介護の世界』へ飛び込む絶対的なチャンスと言えるのです。次の項目では、介護予防事業でどのような人材が求められているのかを紹介していきたいと思います。

(文責:太井彦治:介護関係の仕事に従事。執筆・取材も受けています。)


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